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とらいあんぐるセッションズ


束の間のバラード
#10 Hard Edge


 何が起こったか分からない。それでも直撃を避けられたのは僥倖だろう。
 美由紀も頬をレオナは腿をそれぞれ浅く切り、血が流れていた。
「ふむ。やはりこの程度では終わらぬか」
 何かをしただろうその技の主は、僅かだが残念そうに、だが楽しそうにも見える微笑を浮かべながらつぶやいている。
「たぶん、あの触手のような武器ね」
「はい」
 レオナの言葉に美由紀はうなずく。
 グラキエースと名乗る男が身に着けていた刃のような飾り。それが鎌首をもたげるように動いた時点で危険は感じていた。しかし、まさかこのような正体不明の攻撃をしてくるとは予想だにしていなかった事態だ。
「少々待っていたのだが、攻めてこないのかね?」
 油断していたわけではないが、グラキエースのその言葉で二人はさらに気を引き締める。
「では、こちらから攻めさせてもらおう」
 宣言どおり、彼は二人との間合いを詰めて来る。
「行けッ!」
 マントの裾の触手――イージスランスが主の言葉に従い、それぞれが美由紀とレオナの足元へ強襲する。
 二人は散開するようにそれぞれ左右へと飛んで足元を払うイージスランスを躱す。
 その時点でグラキエースは足を止め自らの腕を交差させる形で右手を美由紀に左手をレオナへと掲げた。
 直後――その手首につけている大きめの腕飾りのようなリングから蛇腹のような刃が飛び出してきた。
 高速で伸びてくるそれを着地と同時に紙一重で伏せることで美由紀は避け、レオナは着地と同時に横に飛んで避ける。
 まっすぐに伸びたその触手は出た時と同じ速度で自らの巣へと戻っていく。だが腕輪の中に完全には戻らず、三十センチメートルほど頭を出した形で固定されたように固まった。
 その姿はさながらカタールのようだ。
「なるほど。予想以上の性能だ。イージスランスもガリオンソードもよく私の言うことを聞く。さて、この武器について貴女方プロはどう思われるかね? 意見しだいでは即座に実践投入したいのだが」
 その問に二人は答えない。
 相手を見据えそれぞれ戦い方を思考する。
 最初に動いたのは美由紀だった。
「む」
 飛針を数本放ち、それを追うように疾駆する。
 もちろん飛針が当たるなどと思ってはいない。ただの牽制である。
 グラキエースは難なく飛針を避けた。美由紀はその避けるタイミングに併せて一気に踏み込み、居合いにて一閃する。

 ギャギィ!

 美由紀の龍鱗とカタール形態のガリオンソードが擦れ合い不快な金属音を立てる。
 直後、イーリスランスの片方が美由紀の足に巻き付くと、グラキエースの後方へと放り投げた。
 その攻防の死角を取ったレオナは美由紀の身体が浮き始めるのと同時に低い姿勢で踏み込み、手刀で袈裟懸けに切り付ける。
 グラキエースはこちらを見ていない。
(取ったッ!)
 内心でそう確信するレオナだったが、突然感じた右脇腹の衝撃に目を白黒させる。
 美由紀に巻き付いていない方のイーリスランスがグラキエースの周囲を薙ぎ払いレオナの腹部を強打したのだ。
「がぁ……は――」
 そのまま弾き飛ばされて地面を転がるがすばやく立ち上がる。
 美由紀が立ち上がったのも同じようなタイミングであった。
「なかなかの連携だ。ここ数日で出会った者の急造コンビとは思えぬ。だが申し訳ない。このガリオンソードとイーリスランス――意思を持つ生物兵器だ。私の意志一つで自由自在に操れるのだが、主に危機が迫ると、主の意思に関係なく守ろうとするのだよ」
 グラキエースはゆっくりと優雅ともいえる歩き方で、美由紀とレオナの双方を見ることが出来る位置へと移動する。
「さて、もう終わり……というわけでもないのだろう? 君たちが正義の味方であるのなら、我々ネスツは悪の一味だ。ならば、最後の最後まで足掻くのが正義の味方ではないのかな?」
 二本のイーリスランスが何度目かの鎌首をもたげ、その先端をそれぞれへと向ける。
「どれだけ傷を負おうが、どれだけ血に塗れようが、何かの信念を抱き抗うものは美しい。私はそう思う。もっとも、我が兄にあたる人物はそういう他者に敬意を思う感性などを持ち合わせていないようだがね」
 肩を竦め、まったく傲慢な兄で困っている、などと付け加える。
「君たちは美しい。普段の姿もさる事ながら、今のように必死で抗う姿もまた美しい。ならば、最後まで抵抗して美しい散り様を見せてくれたまえ。華は散るからこそ美しいと言うが、簡単に散ってしまっては面白くない」
 イーリスランスの先端がパックリと開き二又に分かれると、その中央に青白い光が溢れスパークし始める。
「ゆえ、簡単に――死んでくれるな!」
 グラキエースの言葉と共にイーリスランスは二人目掛けてエネルギー塊を投げつけた。


     ※


 この場に現れたのはいかにもといった風情の男たち。一人だけ、作業用のツナギのような物を着ている。
 そのニヤニヤと笑う表情こそ本物にはないものの、見紛う事なき草薙京である。
「あれが……彼のクローン、か」
 いる事は知っていた。だが見るのは始めてである。
本物の草薙京は強い。それは手合わせをしたので重々して知っている。そして断言できる。あのクローンは見掛け倒しである事を。
晶が遭遇し、倒したと言っていた。つまり、晶では限りなく勝率がゼロに近い本物とは違い、やり方しだいで晶でも勝てる相手と言うことだ。いや、晶の話をそのまま受けるとするならば、センスだけの素人。
ならば、厄介なのは銃を持つ十人程の連中であり、元よりクローンなど眼中に入れる必要はない。センスがある――というのだからうまいと思える妨害があるかもしれないが、それでも、実戦経験はこちらの方が上だ。実力も上だと断言する。
だからこそどんなうまい妨害であろうと、負けはしないだろう。
油断はしない。最初から全力。戦いの場はここだけではない。香港国際警防隊や他の作戦参加メンバーの実力を疑う気はないが、万が一という事もある。だからこそ、一つの場を最速で収め次へと向かう。
刃を黒塗りにした一対の小太刀。銘は『八景(やかげ)』。
恭也と共にいくつもの修羅場を越えた相棒。この剣を過信する気はないが、これがあれば負ける気がしないのも事実。片方を背のホルスターへ。もう一刀を左手に。右手は添えない。添えれば、万が一の時に右手で鋼糸を扱えない。
 抜刀はするが、それが出来ると確信のあるタイミングのみ。
 ネスツの戦闘員達はこちらを甘く見ている。ヘリのパイロットと恭也の二人しかこの場にいないことに。だからこそ、その心の隙をつく。心構えなどさせ直す気はない。向こうが油断を消す前に殲滅させる。
 意を決し、恭也は八景を持つ手に力を込め、風の如き速度で敵陣の中央へと踏み込んだ。
 一瞬。走ると同時に、袖に隠してある飛針(とばり)を数人に目掛けて投げる。
 二瞬。あえて飛針で狙わずにいた先頭の男を抜刀により切り伏せる。
 三瞬。こちらへと銃を向けた男が引鉄を引く前に飛び込み左のヒジを鳩尾にめり込ませる。それと同時に刃を収める。
 四瞬。右手を振って鋼糸を伸ばす。狙いは銃を構えている男。
 五瞬。鋼糸を繰り、銃を手にした男達全ての手を切りつけ銃を弾く。

 あとは簡単。接近戦で負ける気はない。抜刀と共に近場の男を切り伏せ、今と同じ速度で相手の隙間を縫い駆ける。
 ここまで十瞬。
 斬りそびれたのはただ一人――『京』。
 外したのか、躱したのか……どちらでも構わないが。
「……へぇ、やるじゃん」
 にやにやと口笛でも吹くように、彼はそう言った。
 ああ、なるほど。だからセンスだけの素人。
 晶の言った意味が良くわかる。
 確かに今、こちらの攻撃が唯一当たらなかった存在だ。にもかかわらず、こちらのわずかな隙を狙ってこなかった。
自分より強いものと戦った事がない。だから、戦力の差が分からない。確かに、戦闘の強さだけなら晶より上だろう。だが、自分以外や格下以外の相手と戦ったことが無さ過ぎる。
「でもな、オレはこいつら雑魚とぶぁッ!」
 口上の途中、脇腹を峰で強打。
 目を見開き呻く『京』の腋の下へ逆袈裟一閃。
 これであの草薙京のクローンだというのだから恐れ入る。どれ程の差があれど、反応――あるいは反応する素振りというものを感じるはずだ。にもかかわらず、このクローンからはそれを感じなかった。躱そうという意思も、本能的あるいは感覚的な咄嗟の反応も――そんな素振りが何一つ無かった。
 つまりこの『京』は、自分が攻撃されないとでも思っていたのだろう。本気でどうしようもない。
 恭也から言わせればセンスすらゼロだ。ただの生き写し。能力を持っていながら使い方がわからず、そのくせ自分が強いと思い込んでいる。
 膝を付いて苦しげな息をする『京』を一瞥し、ヘリのパイロット――すでにヘリからは降りてきている――に、向き直る。
「あとはまかせます」
 彼が目でうなずくのを確認すると、恭也は『京』の脇を駆け、この場を後にした。


     ※


 雑魚はあらかた片付けた。後は強敵――草薙京のクローンのみ。そう思っていた。
 だが、あまりにもあっさりと背後を取れた。即座にクラークは相手彼を持ち上げ、もっとも得意とするプロレス技のアルゼンチン式バックブリーカーを決める。だが、それで終わりにはせず、
「デスバレーボムッ!」
 相手を頭から地面に叩きつけるデスバレーボムへ連携させた。
 クローンはその衝撃から意識を失っているようだ。
 ネスツの生み出した人造人間。その中でも草薙京の力を植されたK'(ケイダッシュ)、身体の半分以上をサイボーグ化しているマキシマ、そして以前出会った氷使いの少女。ネスツ連中と戦った中でもこの三人は強い。
 そんな前例があったからこそ、クラークは本物の京と戦うつもりで迎え撃った。射撃は苦手ではないが、草薙京相手に通用するようなものではない。ならば、こちらも最初から接近戦を狙う作戦。その結果がこれだ。
「拍子抜けもいいところだな」
 投げた時にズレたサングラスの位置を直して嘆息する。
「おーい」
「ん?」
 ヘリのパイロットに呼ばれそちらへと向かう。
「すまないが、このポイントへ向かってくれないか」
 言われたポイントはこの街のはずれにある草原。
「どうかしたのか? ここには腕利きが二人もいるはずだが」
「いや、それが……」
 それはパイロットも知っていた。だからこそ困ったように口籠ってから答えた。
「それが、そこの担当パイロットからなんですが――苦戦してるようです。二人とも」
「なんだと?」
 クラークはサングラスの下で眉をひそめる。
「それも……たった一人の男に……」
 それこそ驚愕の一言だった。
 まさかあの二人をたった一人で押さえ込む事が出来るものが居るとは……。
「わかった。すぐに向かう」
「悪いですね。休暇中なんですって?」
「なに、元々この街で何も起きなかったら、の話だ」
 互いに軽い敬礼をしあってから、クラークは問題のポイントへ向かった。


    ※


 胸倉掴んでパチキを一発。その石頭を受けてよろけた相手に、思い切り力を溜めて振りかぶる。
「ほれ、とっとと目ぇ覚ませよ。デカイのいくぜ?」
 今の頭突きで軽い脳震盪でも起こしたのか、頭を振っている『京』に向かって、
「どっ……かぁぁぁぁんっ!」
 力任せのハンマーパンチを繰り出した。
 そのミサイルの如き拳の直撃を受けて、『京』は十数メートル吹き飛んで、地面を六バウンド。そのままごろごろと転がってうつ伏せに倒れると、ピクリとも動かなくなる。
「なんだよ、本気で見掛け倒しだなテメェら。もうちょっと根性入れて鍛えてみたらどうだ? もちろん鍛えるのはブタバコの中か、出てきてからになるけどよ」
 鍛える気があるならいい教官を教えてやるぜ、などと軽口を叩きつつ凝りをほぐすように肩を回す。
「ちょっといいか?」
 ヘリのパイロットの声を掛けられ、ラルフは素早く向き直る。
「どうした?」
 手にして地図のあるポイントを指差しながらパイロットが告げる。
「どうにもこのポイントに現れた男、ネスツの幹部クラスのやつらしい。担当の二人が苦戦してるようだ」
「ンだと?」
 幹部クラスが日本のこんな街に現れた事も驚きだが、それ以上に、レオナと美由紀のコンビが苦戦している事に驚いた。
「二人は十分程度の時間、男とやり合ってるらしいが、こちらからはまだカスリ傷一つ負わせてないらしい」
 なるほど強敵だ。
 苦笑しながらラルフはバンダナを締め直す。
「幹部クラスか。ふん捕まえるにゃ、丁度いい。俺たちと香港警防(あんたら)――どっちの関係者が捕まえても情報は山分けだからな」
「そういうことはウチの隊長に言ってくれ」
「違ぇねぇ」
 肩を竦めヘリに背を向ける。
「時間まで、ここはまかせて平気か?」
「この程度の連中しか来なければ、な」
 にやけた笑みでそんな弱気な事を言っているパイロットに、ラルフは首だけ彼に向けて提案する。
「なら、神様でもカミさんでもトイレットペーパーでもいいから、そうであるように祈っとけ。ちったぁ、暇つぶしにはなるだろ?」
「無神論者で独身だからな……祈る相手がいねぇよ。ま、仕方ないからあんたらがその幹部さんを捕まえられるように祈っといてやるよ。使い終わった手紙にでも、な」
「んで、祈りが届くと誰がどんな祝福してくれるんだ?」
「そんなもん決まってるだろ? あんたらの上司が給料を増やしてくれるんだ」
「そりゃあありがてぇ祝福だ。嬉しすぎて涙がちょちょぎれるぜ。もしそうなったら、今後紙を流す前にちゃんと敬礼してやらねぇとな。ま、そうなるようにテキトーに祈っといてくれや」
「OK、気が向いたらな」
 そんなやりとりをした後、ラルフはパイロットに二本の指をこめかみで滑らせるような軽い敬礼を送ってから、走り出す。
(俺が到着するまで死ぬんじゃねぇぞ。レオナ! 嬢ちゃん!)


     ※


「……ブラックアウト」
 そのつぶやき声だけ残してK’の姿が陽炎のように揺らめいて消えると、『京』の目の前に彼の形をした陽炎が現れ、本物へと成る。
「なっ!」
 驚愕に目を見開く『京』。
 そんなクローンに侮蔑の眼差しを向けながら、胸倉を引っ掴み乱暴に自分の方へと手繰り寄せ、重いローキックで足元を刈る。
 前屈みの姿勢で宙に浮いた『京』の首に、
「シュッ!」
 鋭い呼気と共に肘を落とし、地面叩き付けた。
「オリジナルの野朗もこんなにザコなのか?」
 動かなくなったクローンを見下ろしながら唾棄するようにうめく。
 直後、
「K’ッ!」
 ウィップの鋭い声が聞こえる共に銃声が響く。ウィップか敵か。
 考える暇はなかった。運に天をまかせその場から飛び退く。
 ダメージはない。弾が飛んで来なかったのか躱せたのだろう。どちらにしろ当たらなかった事には変わりない
 すぐに身体を銃声がした方へと向けると、男が一人。二丁の拳銃を持ち、腰を落とし左手を前に伸ばし右手を引く。そんな、さながら何かの武術のような構えで佇んでいる。
 さらにその男の向こう側で、ウィップが左腕から血を流し傷口を押さえている。
「ただのザコ……じゃねぇな……」
 男の構えにスキらしいものはない。
「だが、まぁ、ただのザコじゃねぇザコだろ」
 そんな男を前にしても、K’いつも通り面倒くさそうな顔をするだけ。
「だが、貴様らはそのザコではないザコにここでやれるのだぞ?」
 ただでさえ鋭い目をさらに鋭くする男。並に人間あら圧倒されかねない殺気を帯びた眼光を向けられても、K’の不遜な態度は変わらない。
「そうかよ。じゃあ、ま――俺を倒すとか抜かすテメェの名前ぐれぇ聞いといてやるよ。俺はどうせすぐに忘れるだろうが、そっちのモミアゲサイボーグが記録しといてくれるだろうよ」
 モミアゲサイボーグと称されて、マキシマが不服そうな顔をするがあえて何も言わずに、手近にいた戦闘員を殴る。
「フン舐めた口を……ならば記録しておけ。ネスツ第二戦闘部隊第四班班長のラクセウだ。どうせすぐに消される記録だろうが、な」
「そうかよ!」
 不敵な笑みを浮かべて名乗るラクセウに向かってK’走り出す。
 それに合わせて、ウィップとヘリのパイロットが同時に銃を構える。
 直後、

 ダン! ダン!

 ラクセウが視線と左手をK’に向けたまま、右手を二人へ向けて伸ばし銃を撃った。
 そこへK’が踏み込んで来て、サッカーボールでも蹴るかのような仕草で足を振りぬく。
 スウェーバックをし、ギリギリの所で蹴りを避けたラクセウはその身体を引いた体勢のまま左の引鉄を引く。
「チィッ」
 舌打ちして身体を捻るK’だったが、弾が掠めツナギに一条の傷をつける。
 即座、ラクセウは引いていた右足を軸に、勢いをつけて体勢を整えるとすぐに右手をK’に向け、両方で一発ずつ弾丸を放つ。
「ッなろう!」
 咄嗟の反応でK’はそれを避ける。直撃こそ逃れたものの右の脇腹と左腿を掠めた。
 更なる追撃をしようとしたラクセウへ、横か鞭が伸びてくる。
 しかたなく舌打ちをして飛び退くラクセウ。だが、鞭は地面を弾くと弾みをつけて再度ラクセウを襲う。
 それを身体を沈めて躱した。鞭が完全に頭上を越えたのを確認するや、ウィップの居る方へと走り出す。
 しかし彼とウィップの間に入る影が一つ。ラクセウはその影が視界に入るなり真横に飛ぶ。
 先ほどまでラクセウが居た場所にはナイフが突き刺さっていた。
 忌々しげにその影を睨む。すでにその女は手近な戦闘員へと向き直っている。
「よそ見してられる程、テメェは強かねぇだろうが!」
 ラクセウがほんの一瞬注意を逸らしたところへ、何時の間に飛ばしていたのか、K’が放ったと思われる火の玉が彼へと向かってきていた。
 その火の玉の後を追うようにK’は走ってくる。ヘタに火の玉を避ければK’の攻撃の的にされるのは明白である。一瞬の判断を迷った。それが致命的であると知りつつ、迷ってしまった自分にラクセウは舌打ちした。
「うざってぇんだよッ!」
 しかし、K’は戦闘員の一人が銃を撃った事により、足を止めざるを得なかった。
 内心でその部下を褒めつつ、ラクセウは横に飛んで火の玉を躱しつつ、K’へ両方から一発ずつ時間差をつけて撃つ。
「もらった!」
「クソがッ!」
 吐き捨てるように毒づいて、K’はその場から飛び退く。だが、その不安定な体勢のところへ、ナイフを持った戦闘員が切りかかってきた。
 なんとか身を沈めナイフを避けるとK’。すぐさま、相手の顎へカチ上げるようなビルドアッパーを食らわせると、
「オラァ――ッ!」
 身体を反転させつつ右手から生み出した炎を浴びせる。
 燃やした相手の状態を見ず、K’はすぐにラクセウへと視線を向けた。
 明らかにその二丁の銃口はK’を狙っている。
 K’は今しがた燃やした雑魚が倒れていなかった事に適当に感謝しつつ、その男を片手で捕まえるとぶっきらぼうにラクセウへ向かって放り投げた。
 もちろんこれで攻撃を防げるとは思っていない。だが、一瞬でもタイミングをズラせれば充分である。
 即座にその場所を離れるように、K'が移動しようとする。
 その様子に気がついたマキシマは手近な敵の頭を鷲掴みにすると、ラクセウに向かって投げる。K’のやったような適当な投げ方ではなく、本気でラクセウを狙って、だ。
 その結果を見ずに視線を自分の正面へと戻し、
「雑魚がいっぱい来ました……で、終わってくれれば良かったのにな」
 苦笑しながら、
「ベイパァ―――」
 右手に炸薬をセット。それの破裂する衝撃を利用して渾身のストレートを放つ。
「キャノンッ!」
 衝撃波を伴ったそのパンチはマキシマへと向かって来る男たちをまとめて吹き飛ばす。それで装填されていた炸薬カートリッジを使いきったマキシマは手首のリボルバーを開き、使い終わった薬莢を捨て素早く予備の炸薬を装填し直す。
 戦闘力ではこちらの四人が上回っているが、突出した強さを持つラクセウと、彼を支援する戦闘力そこそこの戦闘員たちが鬱陶しいことこの上ない。
(うちのリーダーは、ラクセウ班長とやらに首っ丈、か。なら早いトコ雑魚全員片つけて、少しは楽させてやらんと、どやされるな)
 腰を少し落とし、足のモーターを回転させる。
 そのままマキシマは体勢を維持したまま文字通り滑るように走り出す。
(嬢ちゃんの左手は致命傷じゃなさそうだが、あまり期待はできんな。唯一の救いはパイロットの嬢ちゃんが案外やる事か)
 滑走姿勢のまま、戦闘員の一人を救い上げ担ぐ。
 モーターを停止させて、その場で立ち止まると固まっている戦闘員たちへ、
「この日、出会えた事に感謝しようぜ。ほら、プレゼントだ」
 担いでいた男を投げ付ける。
(各所でもこのくらいの規模の戦闘はあるだろ)
 そう思うと、苦笑したくなる。
(この少ない人数で――無茶作戦だぜ。まったく。参加者全員無事にミッションコンプリートと洒落込めるのかね?)
 投げ飛ばした男を受け止める為に動きを止めた戦闘員たちに向かってベイパーキャノンを叩き込みながら、マキシマは内心で肩を竦めた。



〜NEXT〜






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