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とらいあんぐるセッションズ


束の間のバラード
#3 brave heart




 美しく、だが感情の乏しい顔。静かで、そして冷ややかで、触れば切れてしまうのではないかと思うほど研ぎ澄まされた鋭さ――そんな雰囲気をもった二十歳前後の女性は呼び出され、この部屋へとやってきた。
 そして、その女性の両隣には屈強な体つきの男が二人。
 どちらも、洗いざらしてくすんだようなTシャツに袖なしのダウンジャケットを羽織っている。そこまでなら、同じ格好なのだが、片方は赤いバンダナ。もう一方はサングラスをかけ帽子をかぶっていた。ふたりも、女性と同じようにこの部屋へと呼び出されたらしい。
 照明をギリギリまで落したこの部屋の奥にある執務用のデスク。そこに三人を呼んだ男がいた。
 二人の男に負けずとも劣らない屈強な体つき。カーキ色の軍服に身を包んだ隻眼のその男は、ゆっくりとイスを反転させ、三人の方へと身体を向ける。
「君達を読んだのは他でもない」
「ネスツのことですね?」
 隻眼の男の言葉に、バンダナの男が訊ねる。
「そうだ」
 隻眼の男はうなずいて、言葉を続けた。
「未確認ではあるが、日本の海鳴市という場所でネスツの者達が何かをしているとの情報が入った」
 その言葉に二人の男達の表情が僅に変わったが、女性の表情は変わらない。
「そこでだ、君達に確認をしてきてもらいたい」
「なぜ――私達なのですか?」
 女性の言葉に、隻眼の男は僅かに口を歪めてからすぐにもとの表情に戻る。
「確かにな――情報確認は君達の仕事ではない。
 だが、未確認情報だからこそ、今回は君達にやってもらおうと思ったのだ」
「?」
 三人に疑問が浮かぶ。それを見てから隻眼の男は続けた。
「活動期間は二週間。作戦行動中に情報がガセネタだとわかった場合、海鳴市から出ないことを条件に残りの期間を休暇に当てても構わん」
「教官――いいんですか? そんな――」
 なにか言いかけたサングラスの男を制して、隻眼の男は告げる。
「こんな時期だからだ、スティル少尉。
 ネスツが表立って行動を始めてから、君達には休みなしに前線での戦闘、調査等をしてもらっている。故に少々、楽な任務を与えてやろうというわけだ。
 それに、ネスツとの決着は近いうちに付くコトが予想される。
 ネスツ壊滅の最終ミッション時にも君達には前線に出てもらうことになるだろう。そんな時に疲労が足枷にでもなられたら敵わん。
 上の連中は、君達が倒れるまでコキ使いたいようなのだが――私は少々の休養は重要だと思う。
だから、こういう任務という名目ででもないと休ませられんのだよ」
 隻眼の男――ハイデルンは、一部からは冷徹で惨酷な教官だと思われており、確かにそういった面は持ち合わせている。だが、その実、一番部下思いな人間でもある。
「作戦開始は十時間後。ホテルの予約はしてある。必要最低限の機材及び荷物を準備しておけ。以上だ――質問は?」
 特に質問がないことを確認すると、解散を告げる。
 三人は三者三様に敬礼をして、各自の部屋へと戻っていった。
 全員の足跡が聞えなくなってから、ハイデルンは立ちあがり、ブラインドを上げる。
「情報提供の礼として、私が信頼するルークとビショップそれとクイーンを貸してやる。何をするかしらんが、しくじるなよ」
 夕日によって茜色に染め上げられた滑走路を見ながら、ハイデルンはつぶやいた。


     ※


 久しぶりに仕事がオフだった日の夕暮れ、アイリーン・ノアはふと、その店に目がいった。
「久しぶりにマスターにでも顔を出そうかな?」
 なんとなく口に出してみると、それが魅力的な提案に思え、アイリーンはその小さなライブハウスに足を向けた。
「久しぶり、マスター」
 仕事が少なかったときに、ちょくちょくと顔を出していた馴染みの店のマスターに挨拶をする。
「アイちゃん。久しぶりじゃないの
 最近、さらに忙しそうじゃん」
「そうなのよ――ホント、忙しくって」
「今日は? オフ?」
「そ。だからたまにはね」
「嬉しいね。ちゃんと、顔出してくれるんだから。
 なんか飲む?」
「うん。お願い」
 そんな風に、取り止めのない会話を無名のバンドマン達の演奏をバックにしていく。
 ややして、
「飛び入りをしても構わんか?」
 一人の青年が低い声でマスターにそう話しかけた。
 長身で肩幅が広いその青年は長い足を赤いパンツで包み、黒いショートジャケットからはだらしなくドレスシャツを垂らしている。それだけで奇異とも言える格好にもかかわらず、その上、長めの髪を赤く染め上げているため周りの目には余計に奇異に写る。
 ある種の異様な空気を纏ったその青年にマスターは普段と変わらぬ調子で、
「構わねぇよ」
 そう言って一枚のカードを手渡した。
「今、控え室にいる奴らにこいつを見せな」
「たまたま立ち寄っただけだからな、ベースの持ち合わせがない。借りれるか?」
 カードを受け取ってから、青年は尋ねる。
「おうよ。カウンターの中にあるのは俺のだ。好きなのを使いな」
「ああ」
 青年がうなずき、ベースを物色していく。
 そんな青年の背中にアイリーンが声をかける。
「そこの赤毛君。わたしも一緒に上がって歌っていい?」
「構わん――が、そっちが俺に合わせろ。できんようならすぐさま舞台から蹴落とすぞ」
「上等!」
 アイリーンは自分の左手に右の拳をぶつけると、
「ってことだから、マスター」
 そう向き直った。
「好きにしなよ」
 マスターが呆れたように肩を竦める。
 アイリーンは再び青年の方に向き直ると、使うベースを決定したのか、肩からかけていた。
「赤毛君、名前は?」
「人に名を尋ねるのなら、まずは名乗ったらどうだ?」
「失礼」
 おどけたように謝ってから、自分の名前を告げる。
「アイリーン・ノアよ。あなたは?」
「庵……八神庵だ」


     ※


 彼女はセーラと呼ばれていたこともあるし、サリーと名乗っていたこともある。最近まで所属していた傭兵部隊ではウィップというコードネームをもらった。一方的ではあるが、ムチ子などというニックネームも付けられている。
 どれも気に入っている――ムチ子は除くが――名前だが自分自身、やはりウィップという名が今のところはぴったりだと思う。
 たまたま立ち寄った喫茶店の窓際の席で、ぼんやりとそんなコトを考えながら、彼女――ウィップは手元のアイスミルクティーの中でスプーンを回していた。
 考えなければならないことは山ほどある。だが、どれもこれも答えのでないものばかりだ。
 本当はそういったコトをひとときでも忘れようと思い、この街で評判の喫茶店『翠屋』に立ち寄ったのだが、いざ席に付いて食事をしてみれば、考えることはいつもと同じだった。
 唯一の救いといえば、ジャンクフードばかりであった最近の食事とは違う手作りの料理を食べられたこと。その上、評判通り味も良かったので久しぶりに食事という行為で満足感を得られたことだろう。
 いや、そもそも、自分が食事という行為で満足を得られたのは始めてかもしれない。
 自称十六歳としてはいるが、実際に自分は十六年も生きてはいない。
 だが、少なくとも自分が二十年近く生きてきたという自覚はある。
 もっとも、自覚があったところで記憶と記録が残っていないのだから何とも言えないのだが―――
「よう嬢ちゃん」
 物思いの途中、横から野太い声で話しかけられウィップは我に返る。
「マキシマ……」
「いいのかい? こんなところでのんびりとしていて」
 マキシマと呼ばれた声の主はゆうに2メートルは超える大男だった。体格もがっしりとしていて少なくとも体重は120キロ以上だろう。
 店内にいる他の客から注目を浴びるほどの巨漢である。
「どこぞの坊やを放っておいて食事なんて、知ったらまた癇癪を起こすぞ」
 マキシマはそう言いながらもウィップの正面のイスに腰をかける。
「なんならマキシマも食べていったら?
 おごれる範囲でおごるわよ」
 イスが壊れないかどうか心配するように身動ぎしていたマキシマは動きを止めてニヤリと笑った。
「悪いな、嬢ちゃん。なんかおごらせるような言い方をしちまって」
「良く言うわ。最初からそのつもりだったのでしょう?
 まったく、あなたは食事をしなくても行動に支障がないはずなのに」
 そう言って肩を竦めるウィップにマキシマは笑う。
「味覚はあるんだ。なら人生楽しまなきゃ損だろ?」
 それから再び身動ぎを始めたが、やがてイスが壊れる心配がないと悟るとようやく腰を落ちつけた。
 それから、手近にいたウェイトレスに声をかける。
「注文、いいかい?」
「あ、はい! 少々お待ち下さい。すぐに伺います」
 眼鏡をかけているそのウェイトレスはそう言って、食器の乗ったトレイを両手に一つずつ持ちながらも、足早にだが危なげなく厨房へと入っていった。
 そのウェイトレスを見てマキシマは感心する。
「ほう。今の嬢ちゃん――」
「なに? 好みのタイプだった」
「いや、そうじゃない。いいバランス感覚を持っていると思ってな」
「そういうコト?
 確かにね。ただのウェイトレスにしては、いい身体つきをしているとは思ったけど……って何?」
 言葉の途中でマキシマが意外そうな目つきをしているのに気付き、訊く。
「いや、なに――お前さんにそっちのケがあるなんてしらなかったからな」
「マキシマ……話題を振ってきたのはあなたよ?」
「ただのジョークだ。そう目を吊り上げるなよ嬢ちゃん」
 彼は苦笑混じりにそう言ってから、少し真面目な顔をする。
「かなりデキるな。彼女は」
「ええ。あれだけの腕の持ち主が無名でいるなんてね」
「まぁ、人に自分の強さを見せびらかしたいヤツらばかりじゃないってコトだろうよ」
 丁度そのセリフが終わるのと同時に、
「お待たせしました」
 話の種となっていたウェイトレスがやってきた。
 ウィップはなんともなしに、ウェイトレスの付けているネームプレートに目を向ける。
 高町美由紀――プレートにはそう書いてあった。


     ※


 美由紀は少し前に店へ入ってきた少女のことが少々気になっていた。
 歩き方に隙が無かったのだ。
 そして、その少女の知り合いであろう大男もかなり出来そうなのである。
 もちろん、ここがお店である以上いろいろなお客さんが来ることは分かっているのだが、敏感に成らざるを得ない状況が最近続いてもいる。
 とはいえ、
(相手が何であれ、お客さんなんだからちゃんと対応しないとね)
 美由紀は自分にそう言い聞かせ、いつもどおりに接客した。


     ※


「いいウェイトレスとボディーガードがいるお店ね」
 マキシマの注文したカルボナーラセット(大盛り)を運んできたショートカットヘアのウェイトレスの後姿を見ながらウィップは思わずつぶやいた。
「ホントだな。今の嬢ちゃんもかなりの腕だ」
「さっきの子に比べると真っ直ぐ過ぎる気もするけど」
「俺たちが出会った格闘家のほとんどがちょっとひねた連中ばかりだったからな。
 普通の格闘家なんてヤツはあれでいいんだろうさ。
 どこぞのテコンドーパパもそうだろ?」
 その言葉にウィップは良く分からないといった様子で肩を竦める。
 それと同時に、入り口のドアが乱暴に開いた。
 入ってきたのは黒服にサングラスといった明らかに怪しい男達五人。
 だが、そんな男たちを目の前にしてもレジ打ちをしていた少女は、
「いらっしゃいませ」
 呆然としている客達をよそに、いつも通りの調子で彼らに声をかけた。
 そんな様子を見ていたマキシマは小さく口笛を吹く。
「やるなぁ、あの子」
「マキシマ、見過ごすの?」
 ウィップがやや不安げに問うが、マキシマはあっけらかんと答える。
「いいボディーガードのいる店――そう言ったのはお前だろ?」
「そうだけど……」
「だからちょっとばかし、様子を見てからでも遅くは無い」
「でも、あいつら」
「ああ。ネスツだな。
 だからこそ様子を見るんだ。いいネタを仕入れることができるかもしれないだろ?」
 マキシマはそう言って、男たちの方へと視線を戻す。
「悪いが俺達は客じゃない」
 見れば分かることを言ってから、男の一人が写真を取り出す。
「人を探してるんだ。この男に心当たりは?」
「申し訳ありませんが、心当たりはありません」
 そう答える少女に、男は懐から取り出した銃をつきつけた。


「三流以下ね」
 思わずウィップはつぶやいた。
「銃を出せば解決すると思ってる」
「ああ」
 マキシマも同意する。
「理由がどうあれ、こういった場所で銃をつきつけるのはよろしくない。  後片付けが大変だからな。
 それに、彼女が嘘をついている証拠もない。もし彼女が本当に知らなかったときどうするつもりなんだか」
「どうせ、問題を起こしても上が何とかしてくれるとでも考えてるのでしょうね」
「まったく、ああいう部下がいると上も苦労するだろうよ――」
「本当よね。それで、どうするの? 動く?」
「平気だろ? もう動いてるのがいる」
 不安げなウィップをよそに、マキシマはコーヒーを口に付けながらそう言った。
「お、いい豆を使ってるなこの店」
 のんきなつぶやきを付け加えて。


「もう一度聞くが、心当たりは?」
 銃を突きつけ、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら男は尋ねる。
「人に者を尋ねるつもりでしたらそういった物騒なものは下ろしていただけませんか?」
 再び、マキシマは感心した。
「心音がかなり速くなってるな。そうとう怖いだろうに――よくあれだけのことが言える」
「そうね。訓練された兵隊でも、銃を突きつけられたらうろたえる人が少なくないのに」
 ウィップはうなずく。
 だが、彼女の心中は穏やかではない。
「お前の心音も上がってるぞ」
「あなたはいろんなセンサーで様子が見られるかも知れないけれど、わたしは目の前のものしか見えないのよ?」
「大丈夫だって。それに、イザとなったらお前さんが手提げに隠している相棒を振るえばいい」
「…………わかったわ。そこまで言うなら」
 ウィップはやや焦燥を覚えながらも、うなずいた。


 男は銃をつきつけたままでいる。
 少女は見た目平然と、その男の顔を見ている。
「動かんな――いや、動けないのか。
 しかたない。そういうことなら、ちと手伝ってやるか」
 マキシマはつぶやく。
「おい、ウィップ」
「何?」
「このフォークをお前が投げたって気づかれないように投げろ。
 だが、あいつらには当てるな。適当なトコに落として音を立てるだけでいい」
「了解」
 マキシマからフォークを受け取ると、ウィップは言われたとおりにを投げる。
 キン――
 突然聞こえた音に、男達がそちらに視線を向けた。銃をつきつけている男もそちらに一瞬だけ注意が向いた。
 そんな僅かな時間――少女から気がそれた。
 瞬間。何かが男の持つ銃を払った。
 手を押さえ、そちらに視線を向けると二人のウェイトレスが立っている。
 一人は見た目少年のような印象を受ける活発そうな少女。
 もう一人は小柄で、か弱い印象を受ける少女。だが、手にしたモップからして、銃を弾いたのはこちらだろう。
「うちの店の次期店長候補兼現店長代理にナ二銃を突きつけとんや!」
 小柄の少女がモップを突きつけながら言う。
「お前らみたいな危ない客は実力排除の許可が下りてるんだぜ? この店は!」
 活発そうな方は指をならしながら睨み付ける。
「このガキ供ッ!」
 控えていた男達が一斉に銃を取り出す。
 だが、二人は先の少女と同じく怖気ず怯まない。
 心音も変わらず、ただ平然と口を開く。
「いいのかなぁ、俺達ばっかに注意を向けちゃって」
「自分ら後ろを気にした方がええんとちゃうん?」
 二人がそう言った直後、
「ぐおっ…」
 男たちの一人が、うめき声をあげて崩れ落ちた。
「なんだ!?」
 突然の出来事に、男達は倒れた仲間へと視線を移す。
 次の瞬間――
「ゴガッ…ッ!」
「が、は……」
 その隙を付いて二人がそれぞれ瞬く間に男を叩き伏せる。
 その二人の動きに驚いた男も、
「ぐっ……」
 二人に続くように倒れた。
「後は、あなただけですね」
 マキシマの注文を受けたウェイトレス――確か高町美由紀だ――が感情のない声を男にかける。
「くっ!」
 小さくうめいてから、男はすばやくカウンターを飛び越えると、今度はナイフを取り出して、次期店長候補だという少女の首筋に当てる。
「「なのちゃん!」」
 慌てる二人とは対照的に、美由紀はゆっくりと眼鏡を外して、男を睨み付けるだけ。
「妙なマネするなよ? このガキが死ぬぜ」
「おじさん、なのはを殺してからどうするの?」
「なんだと?」
 いきなり、人質である少女から問われ、男は眉をひそめる。
「だって、なのはが死んじゃったらおじさん人質が無くなりますよ?
 そしたら、お姉ちゃん達にやられておじさんの負けです」
「本当にたいした嬢ちゃんだ」
「言っていることも正論だしね」
 マキシマとウィップは心底感心しあう。
「人質を取った時点で彼らの負けね」
「だから大丈夫だって言ったろ?」
「悪かったわね疑って」
「気にするな。それに、たぶんケガをするのはあの連中だけだ」


「試しに、なのはを殺してみます? わたしは構いませんよ」
 思っても見なかった人質自らの台詞に男は動揺する。
「な――」
「本人が良いといっているんです。試してみたらどうですか? ただし、その時にはあなたの命もないでしょうけど」
 冷ややかな声で美由紀が告げる。
「ちょっと美由紀ちゃん!」
「し! 晶は黙っとき」
 なにか口を挟もうとした少女に対し、もう一人がそれを制す。
「やらないんですか?」
 極限まで店内が緊張する。
 だが、その緊張に耐え切れなくなった男がナイフを振り上げた。
 その瞬間――美由紀の姿が消えたかと思うと、男の腕を捻りナイフを奪って地面に叩きつけていた。


「お見事」
「最後……何が起きたの?」
 わざとらしい口笛を吹き感心するマキシマにウィップは詰め寄った。
「何って――あの嬢ちゃんがお客さんの背後に回ったのさ」
「だから! どうやって移動したの? あの一瞬で?」
 当然のように答えるマキシマに、ウィップはイライラとしながらもう一度訊く。
「走ってだ。それ以外に何がある?」
「まさか? 彼女は普通の人間でしょ?」
「ああ。確かに人間の限界を超えた速度だったが、薬や改造をされた形跡はないな」
「それじゃあ――」
「そう。あの移動速度は訓練だけで身に付けたものみたいだ」
「信じられないわ――」
「まぁ、生身で炎を生み出す人種がいるんだ。あんなのがいてもいいだろ」
「そうね。でも、彼女ぐらいでしょ? この街で私達とまともに張り合えそうなのは」
「いや、そうでもないさ」
「え?」
「この街を散歩していて気が付いたんだがな――いるんだ結構。この街には」
 そこで、一息入れてから彼は続けた。
「KOFの常連組と張り合えそうな実力者がな」
「でも、所詮は格闘家でしょ?」
「半分はな」
 半分――その実力者というのが何人いるか分からない。
 だが、
「目立つことがしにくい街みたいね」
「そうだな。だが、それはヤツ等だって同じだろ?」
 そう言ってマキシマは最後のひと口だけ残ったコーヒーを飲み干した。


〜NEXT〜






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