「――そう、ジョセフィーヌちゃんが……」 一通りの 「そこで、お聞きしたいんですが――ジョセフィーヌちゃんと一緒に亡くなっていた青年、【 「いいえ、私は何も……西村さんは?」 「すみません……私もちょっと……」 依頼人――浅田婦人とお手伝いの西村はそろって首を横に振る。 「そうですか」 流緒は一つうなずいてから話題を切り替えた。 「ところで、ジョセフィーヌちゃんの遺体についてですが、現在当事務所で保管しておりますが、どうなさいますか? 浅田様の方で手厚く葬られるのでしたら後日、お持ちいたしますが」 そう告げる流緒に対して、浅田婦人は面倒くさそうな仕草をして返答した。 「結構ですわ。そちらで適当の処分しちゃってください」 その言葉に美斗の表情が一瞬強張るが、自制をしたのかそれ以上のことをする気はなさそうだ。 「え!?」 それとは別に、同じタイミングでお手伝いである西村が声を上げる。 「どうしたんですか西村さん?」 「あ……いえ……」 少し沈んだ顔をする西村を若干に気にかけながら、 「では、ジョセフィーヌちゃんはこちらの当方で葬らせて頂きます」 「ええ。お願いします」 「では、これで依頼のほうは完了とさせていただきます。料金の方は本日より一週間以内に指定の口座の方へよろしくお願いいたします」 流緒は立ち上がり、続いて横にいた美斗も立ち上がる。 「では、我々はこれで。失礼したします」 「失礼いたします」 二人はそれぞれにお辞儀をして、浅田邸を後にした。 「おい笠鷺」 報告終了の帰り道、流緒はなぜだかイライラしている美斗に、面倒くさそうに声を掛けた。 「なんですか!?」 「頭。湯気でってぞ」 「だってムカツクじゃないですか!」 カッカしてる美斗に付き合いで適当にあいずちを打つかのように聞き返す。 「何が?」 「浅田婦人の態度ですよ! 可愛がっていた愛犬が死んじゃったっていうのに!」 「ああ……アレ、か」 ジョセフィーヌの亡骸をどうするか――流緒がそう訊いた時の依頼人の反応を思い出し、うなずく。 「まぁ、何と言うかな……ワン公は分かってたんじゃねぇのか?」 「は?」 「犬ってのはな、愛情に対して愛情を返す生き物だ。 必要な時以外は可愛がってくれない主人を主人と思うか?」 「え?」 鈍いヤツだな、そうつぶやいてから面白くなさそうに流緒は続ける。 「犬だって分かっていたって事だよ。本当に自分を可愛がってくれてるのは誰か。本当の愛情を返すべき相手は誰か。 上っ面だけしか可愛がってくれない主人には、やっぱり犬も上っ面の愛情だけだったろうよ」 「それって……」 何か言いかける美斗を遮り、 「そうでしょう――」 突然立ち止まると、流緒は振り返った。 「西村さん?」 「はぁはぁ……私が追いかけているのをご存知でしたら止まってくださってもいいのに。 人が悪いんですね探偵さん」 「職業柄、ってヤツですよ」 ビジネスモードにシフトして流緒は苦笑する。 「――で、どうされます?」 「明日、朝一番にそちらの事務所にお伺いしても大丈夫ですか?」 「朝の八時過ぎには誰か知ら事務所にいると思いますので、それ以降でよければ」 「わかりました。では、明日……お伺いさせていただきます」 では、まだ仕事がありますので――そう言って西村はお辞儀をして来た道を引き返していく。 「西村さん」 その背中に流緒が言葉を投げかけた。 足を止め向こうが振り返るのを確認してから、流緒は続ける。 「古室沢詠治とジョセフィーヌちゃんが亡くなったのは事故です。あなたのせいじゃありません」 西村は再び流緒に会釈をすると、今度は雑踏の中へと消えていった。 しばらく西村の背中を見送っていた流緒だったが、ややして、 「さて、帰ぇるか」 ノーマルモードへと戻るとかったるそうに首を鳴らしながら再び歩き始める。 「ちょ、ちょっと先輩!?」 「何だよ?」 「もしかしなくても、この犬探しって……」 「ああ。死んじまったの完全な予想外だったんだろうが、失踪そのものはお手伝いの西村と、その西村の家の近所に住んでた古室沢が仕組んだモノだったんだよ」 「でも、何で――」 「何でって……お前って、変なとこ鈍いな」 「え?」 流緒は嘆息すると自動販売機の前で立ち止まり、ポケットから財布を取り出す。 「コーヒーは飲めるか?」 「え? あ、はい」 うなずく美斗に何の反応もせず、流緒は缶コーヒーを二本購入すると、その一本を美斗へと手渡した。 「ホレ。まぁ、そこそこの活躍をした新人へ選別だ」 「あ、ありがとうございます!」 たかがコーヒー一本でやたらと喜ぶ美斗を、流緒は嫌味のない苦笑を浮かべながら見、自分の分のコーヒーを開ける。それを口につけながら、先ほどの続きを始めた。 「さっき言ってた動機だがな――お前がイラ立ったのと同じ理由だろうよ」 「ふえ?」 なぜだか妙に腑抜けた顔でコーヒーを飲んでいた美斗は、振られた話題に咄嗟に反応できなかったのか気の抜けた返事をして来た。 その間抜け面と来たら―― 「なぁ……殴っていいか?」 「良く分かりませんがダメです」 「わかった」 「何がですか?」 流緒はひどく面白くなさそうに面倒くさそうにうめくと、やる気のなさ全開の半眼で美斗を見遣って告げた。 「人の話を聞いてねぇみてぇだからな――俺と姫在が推理したこの依頼の裏話、もう教えてやらん。 知りたきゃ自分で考えやがれ、ばーか」 「え、ちょっと……」 突然スタスタと早歩きを始める流緒。 「せんぱーい」 それをトテトテと美斗が追いかける。 「待ってください」 だが声を掛けても止まる気配はなくそれどころか何故か速度アップしていく。 「ちょっと、先輩ってばー!」 何はともあれ、香具師羅事務所内で新たに結成されたコンビの最初の事件はこうして終わりを告げたのだった。 「あ、俺ゲーセンよってくから。お前は報告書よろしくな」 「ちょっと!? せんぱーい!?」 Recruit-MagnetRoom 〜 closed.
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