―――――――執筆条件―――――――
制限時間(Failuer)
『三十分』
お題(successful)
『黒 傘 人形』
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僕と彼女とクレーンゲーム
僕と加奈は付き合い初めてから結構経つが、今だに彼女が分からなくなる時がある。
例えば、今。
「ねーねー、アレ欲しいんだけど」
彼女が指を差しているのは、クレーンゲームの景品となっている人形だった。
その人形は三頭身くらいの人型で、人をデフォルメした感じの指のない四肢を持つ黒い人形である。
もっと簡単に説明すると、立体化させた人の影。目の部分だけが白い。そして、右手では何故か傘をさしている。もっとも、その傘自体も影らしく、真っ黒だ。
「どこがいいんんだよ。アレ」
「えー、かわいーと思わない?」
「思わない」
即答してその場から離れようとすると、彼女は僕の袖を引っ張った。
僕は歩き始めた格好のまま首だけで加奈を見る。
「…………………」
「…………………」
互いに無言で見つめ合う。
とりあえず、視線を前に戻し一歩踏み出そうとして、
グイッ!
後ろへと引っ張られた。
僕は再び首だけ彼女の方に向ける。
「…………………」
「…………………」
再度二人は無言で見つめあう。
前回と違うところは、彼女の瞳の中にお星様がいっぱい散らばってるというところか。
ついでにその星の一つ一つに、ご丁寧にも『アレ取って欲しい』と書いてある。
まさに満天の輝き。その瞳に一点の曇りもない。だから満点の輝きかもしれない。ともかく、少しくらい曇っててくれた方が良かった。でも、曇りを通り越して瞳に少しでも雨が滲んでいたら僕の負けは確定する。
そう――だから、満点の星空くらいならば耐えれるかもしれない。
頑張れ僕。そうだ、念じるんだ。理性の勝利を確信するんだ。女の子のおねだりなんかに負けないぞ。
取って取って取って取って取って取って………負けるものか負けるものか負けるものか負けるものか……取って♪欲しいな♪取って♪欲しいな♪取って♪欲しいな♪取って♪欲しいな……逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……って、アレ? なんか、意思の方向がずれてないか僕。
むしろここは逃げるべきだったんじゃ……。
「さっすが♪」
なんだか、加奈が喜んでる。
どうやら僕は加奈に負けて百円をクレーンゲームに投入してしまったらしい。
我ながら何て弱い……。
「もうちょい右右」
加奈のナビゲートに従ってクレーンを操作していく。
で――
「あー、惜しい」
こういうのってなかなかうまくいかないもので、
「よし、もう一回だ」
「お。がんばれ〜」
しかもやりだすと、意地が出てくるものだから、
「お、お、お、お、お……あ〜っ」
「もう少しだもう少し」
取れるか、お金が無くなるまでやり続けてしまうのである。
気が付くと千五百円目。
ついにGETに成功した!
やったぞ僕。すごいぞ僕。
これで加奈も笑みを浮かべて…………あれ?
彼女は落ちてきた人形を手にし、あらゆる角度から観察している。加奈が人形を見れば見るほど眉間にしわがよっていく。
そして、彼女は、
「良く見るとあんまし可愛くないねコレ」
とんでもないタブーを言い放った。
「無理に取ってもらう価値なかったかも」
がっくし。ひどいや。
「ひどいや、千五百円も使わせとて」
かなり落胆した僕をみて、なんだか彼女が困りだす。
「う。そんな涙目になられても……」
それから、彼女は申し訳無さそうにうつむく。
しばらくしてから、パッと顔を上げると無理やりテンションを上げるように僕に言ってきた。
「あー……え〜っと……ほら、ここの近くのモズバーガー行こう! この人形に使った分くらいはおごるから。ね? それでチャラにしない? ……ダメ?」
最後に、僕の顔を上目遣いで覗き込んで気ながら訊いて来る。
まぁ、それで手を打つとしよう。
「よし。その言葉しかと聞き受けた」
「え? もしかして、演技?」
「まぁ、普段振り回されてるから、たまには、ね?」
そういって僕はウィンク一つして、ゲームセンターの出口に向かう。
彼女は律儀にも、人形をマシン備え付けのビニール袋に入れてから追いかけてくる。
「ずっるーい。はじめから、私におごらせる気だったの?」
「あのさ、君――少し自分を見てみたら?」
「ぶー、ぶー」
なんだかブーイングされる事に釈然としないものを感じるんだけど。
そんな憮然としてる僕の腕に彼女は自分の腕を巻きつけてくる。
「まぁ、今回は私もちょっぴり負い目がありますので、まー、おごらないこともないです」
「そう?」
「はい。ただし五百円までです」
「クレーンゲーム代ぐらいまでならおごってくれるとか言ってなかった?」
「私お腹減った〜早く行こう〜」
「聞けって。いや、聞いてお願い。僕の話」
はぁ、やれやれ。
まぁ、たまの休日ってことなら、これでもいいのかもしれないけどね。
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