あ、あれはぁぁぁぁっ! 腰元まである長い髪。 愛らしく飛び出ているアホ毛。 眠そうな眼に猫のような口元。 そして何より、あの泣き黒子ッ! 間違いない! あれは――伝説の少女Aッッッ! いや、待て落ち着くんだ俺。落ち着くんだ兄沢命斗ッ! 今俺がいるのはアニメイトの店内やコミケ会場とは違うんだッ! 故に残念ながら俺が彼女に出来ることなどないッ! そう、今俺が居る場所は社員同士の親睦を深める為に行われているボーリング大会の会場ッ! そして――このレーンでの俺の成績は最下位だッ! ……なんてことだ――なんだか自分で最下位だと認めると心が折れそうになっちまうぜッ! しかし……、何故だ? 何故彼女はこちらを見ている。 もしや気付かれたッ!? いや待て。気付かれたから何だと言うのだ? しかし、しかし……あの熱い視線の意味は一体……ッ!? もしや……もしやッ! そうかそれならば納得が行く! いつも接客の時に交わされる笑顔。次第に惹かれていく心……なんという……なんという王道なLOVEッ! だとすれば――このまま最下位だという成績では彼女を幻滅させてしまうことになるッ! 負けられないッ! 彼女の純情たる乙女回路を守る為、この戦い負けられないんだッ! 「店長のターンですよー」 「おうッ!」 バシっと自分の掌に拳を叩きつけ気合を入れる。 「店長気合入れなおしましたね!?」 「肯定だ――そして宣言しよう」 「ナニをですか!?」 「この戦い――俺は勝ぁぁぁっぁぁつッッッ!」 「でも店長、この点差って、逆転はなかなか難しいですよ〜?」 「フッ!」 そんなことは百も承知だ。 だからこそ、ここで勝つことに華があるッ! 「ふ……見ていろ雑種ども。この おおおおお……っと、他のメンバーがざわめく。 ふ――いい気分だ。 「っていうか、現状逆算すると、店長が優勝するにはこっからオールストライクですよ?」 「問題ない」 そう。オールストライクを出せば勝てるのだ。 「店長まさか――ここから本気でオールストライクを狙うつもりですかッ!」 「肯定だ」 これで、オールストライクでも勝てないのならば、問題はあるが――勝てる可能性があるのだッ! 「うおおおおおおおッ!」 俺は気合を入れてボールを手にして、アドレスを行う。 ちなみにアドレスとはボールを構え投げる準備をすることだッ! 「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ! 勝利を掴めと轟き叫ぶッ!」 そして、今……ボールアプローチ開始ッ! 見ていてくれ伝説の少女Aッ! この俺の雄姿をッ! 「行くぞぉぉぉぉぉッ! ストライクゥゥゥッゥゥゥゥッッ!」 もちろん! いくら気合が入っていたとしてもロフトボールなど論外だッ! そこはちゃんと気を使けているぜッ! 俺の投げたボールは華麗なフックボールとなって、力強く全てのピンを薙ぎ倒す。 気持ちのいい快音を響かせて、レーンモニターにはしっかりと、ストライクの文字が映し出された。 「完璧だ!」 みんなはまだ一投目とはいえ、宣言どおりストライクをたたき出した俺を祝福してくれる。 だが、今俺の興味はただ一つ! 見ていてくれたか? 伝説の少女Aッ!? 「ちょっとこなた。あんたの番よ? こんなとこで何してんのよ?」 「うん……ジュークボックスにリクエスト入れたんだけどさぁ――なかなか反映されなくって」 「あ、そう。とりあえずあんたが投げてくれないと、ゲーム止まっちゃうのよ。とっとと来なさいよ」 「ごめんごめん――て、あ。始まった始まった」 ♪答えは いつも わたしの 胸に〜♪ 「そういう……ことか……」 俺としたことが――盲点だったぜ…… 「て、店長ッ!?」 見ていたのは……俺の頭上の――モニター、か……ぐふっ! |